野生動物保全の再概念化:生活者が共鳴し得る活動に向けて

更新日:2008/08/07

日 時: 2008年8月7日(木)
開催場所: 在ケニア日本大使館(ケニア、ナイロビ)・多目的ホール
共催機関:ケニア野生動物公社、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、
日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターおよび東京大学大学院農学生命科学研究科、
早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター、福島大学

プログラム>>

概要:

日本人研究者によるアフリカでのフィールドワークは伊谷純一郎、今西錦司らにより1958年に開始された。それから半世紀、日本のアフリカ研究は霊長類学や人類学を筆頭に様々な学問領域へと量的にも質的にも拡大してきた。その中で、野生動物保全の研究も近年では若手を中心に盛んに取り組まれるようになった。欧米の先行研究では、野生動物保全が国際援助を通じた地域開発という文脈の中に位置づけられることが多いが、最近では保全および開発の主体として地域コミュニティの役割が重視されるようになってきた。これに対し日本人による研究では、地域開発という「変化」を議論する以前に、その地域において住民が歴史的に形成してきた野生動物との関係が検討される傾向にある。そこには、人間と自然ないし生活環境と自然環境のあいだに明瞭で、絶対的な線引きがなされていることへの懐疑がある。つまり「野生動物保全」という西洋起源の概念を、異なる自然的・社会的・文化的環境に対して無条件に適用することはできないとする感覚と思想が日本人研究者の仕事の基礎を成していると思われる。ただし、そうした地域性・固有性の重視は、研究蓄積の不十分さもあり、結果的に、欧米が嚮導してきた理論的な構築を遅滞させているように思われる。安易な理論化は避けるべきであろうが、地球環境問題が世界的な関心事となり、生物的存在としてのヒトと自然環境との関係が、まさに地球規模に議論される今日、「野生動物保全」という普遍的・抽象的な言葉に対しても、各地域の具体的な事例を踏まえた新たな統合的理論に向けた試みが必要と思われる。

以上のような問題意識を背景に、本ワークショップでは「野生動物保全」という人為的概念の再検討を目指すが、そこでは「野生動物」と呼ばれる存在の、地域の文脈における意味合いを明らかにすることを通じることとする。つまり、「野生動物」の辞書的・西洋的な意味合いは一度、括弧に入れた上で、地域住民にとっての「動物」の意味をその生活を通じて明らかにすることから、「野生動物保全」という人為的介入をしてアフリカの地域住民にとっても了解可能な形へと展開するその道筋を探りたいということである。例えば、狩猟を生業とする(してきた)人々にとって、動物とは「野生」という言葉で一般的に想像される以上に「身近」な存在だと思われる。また、観光業に携わる人からすれば、それはもはや「動物=生物」ではなく、人が意図的に管理する「商品」なのかもしれない。

自然環境が異なれば、そこにおける人間―自然関係も異なるのが常である以上、「野生動物保全」の在るべき姿も地域により多様であろう。しかし、文化・社会的差異を越えて通底する対自然存在としてのヒトという共通性を前提とする時、そこには何らかの普遍的原則が導き出し得るかもしれない。フィールドワークとは、決して調査者・被調査者間の「情報の搾取」で終わるものではなく、人間の「相互理解・了解」へと繋がり得ると思われるが、論文という形式の中ではこの後者の側面は表現し難い。だからこそ、この企画では「ワークショップ」という形を最大限に活用し、フィールドワーカーの「研究」だけでなく、そのフィールドで培った「人間理解」についても、相互討議を行いたいと考えている。

COPYRIGHT © 2012 Japan Society for the Promotion of Science, Nairobi Research Station AllRIGHTS RESERVED