第165回学振ナイロビセミナー 報告(2011年6月開催)

更新日:2012/06/05

発表題目(英語による発表):

“Do-nou” Technology Changes Rural People’s Life: Experience through rural road maintenance in larger Uasin Gishu District, Kenya

日時: 2011年6月16日
場所:JSPSナイロビ研究連絡センター書庫兼セミナー室
演者:本庄 由紀 さん (ナイロビ大学大学院農村社会学/地域開発専攻)
出席者:研究者、大学院生、在ナイロビ日本人ほか 約20名

ケニアの農村部には網の目の農村道路(以下、農道)が張り巡らされている。農道は舗装されず、また定期的に整備されることもなく放置され、雨季になると農道が泥沼化し、荷車、自転車、車両の通行が妨げられる。農村部に住む大部分の人々は、農業を営み、そして、農産物を現金化することで日々の糧を得る。雨季に通行不可となる農道は、農村部に住む人々にとって生活に直結する深刻な問題である。しかしながら、「農道の整備は政府の仕事」、「私たちに農道を整備する技術はない」と考える農村部の人々は半ばあきらめの境地にいる。一方政府は、人員、機材不足とあわせて、予算に限界があり、その多くを幹線道路整備にあてざるを得ない現状に直面している。

本発表は、そのような狭間に取り残された農道整備に焦点をあて、ケニア農村部で実施された「土のう」を使った地域住民による農道整備に関する研究プロジェクト(期間:2008年11月-2009年10月、トヨタ財団提供、京都大学受託、Community Road Empowerment 実施)の調査結果から、農道整備活動を通して、地域住民がどのような変化を遂げたかについて明らかにする。発表内容は主に、以下の3点である。


1)「土のう」工法とは?
2)プロジェクトアプローチ
3)調査結果

1)「土のう」工法とは?

「土のう」工法は土木工学に基づき、主として農村インフラ整備に利用することを目的とする。特長と効果はあわせて以下の5点である。

(a)技術的特長

  • ジオテキスタイル-地盤の中に繊維(土のう袋)を入れて補強する
  • 人々に優しい技術-工法は人力施工が可能なように設計されている。重機や高度な技術を必要としない。資材もあくまで現地調達が可能であることが基本となる。
  • 締め固める工程-土のうを設置後、土のう表面などを木槌などで締め固めることにより地盤を強化することが可能となる。ケニアの地方政府が不定期に行う地ならし用の建設機械を使って表面を削るのみの整備方法では、締め固める工程がないため、雨季が来れば道路はすぐに通行不可となる。
(b)効果
  • 問題解決を促す-「土のう」を使った道直しにより通行性が確保される。
  • 人々を活性化させる-これまで体験したことのない農道整備から人々は様々な気づきや具体的な効果を得る。

2) プロジェクトアプローチ

(a)「土のう」を使った道直しの技術を地域の人々に届ける

 

 a-1 地域住民のオーナーシップの醸成

  • プロジェクト実施側と対象となる地域住民の役割分担の明確化(プロジェクトがすべてを丸抱えしない)
  • 整備する道路は、地域住民に選択をまかせる(彼らが問題箇所を一番よく知っている)
  • 地域住民の働きかけを待つ姿勢(準備が整うまでプロジェクト側はある程度待つ)

 a-2 経験の共有

  • 農道施工は一人の力では成し遂げることができない。地域の人々が一体となってひとつの作業を成し遂げる必要がある。同じ時間に同じ場所に集い作業をすることにより、人々は様々な経験をする。
 a-3 農道が整備されることによる社会の活性化
  • 「土のう」による道直し活動を通して、道路が整備されるという目に見える効果を体験し、その体験は人々の活性化につながる。本発表では、この項目に注目し、どのような変化が起こったのかについて、I)人々が得た気づき、II)具体的に得られた効果について発表した。

3) 調査結果

 

プロジェクトを通して人びとが得た気づきには、以下のようなものがある。

  • Awareness of “do-nou” technology‐「土のう」工法は農道整備に役立つと実感した。
  • Gaining new technology‐人々は農道技術を得たことを実感した。
  • Self-confidence-自分たちはできるんだ!ということを実感した。
  • Happiness-活動を通して充足感を得た。
  • Visible and immediate outcomes-活動後、目に見える効果を実感した。
  • Further sustainable activities-農道整備を自分たちでやることができるし、またやることが大切であることを実感した。

また、具体的に得られた効果には以下のようなものがあった。

  • 雨季に運送コスト削減に成功した
  • 1キロ当たりの農作物の販売価格が上昇した
  • 隣の畑を通らず主要道路までたどり着くことができた
  • 子供の通学が楽になった
  • 水溜りが減り、マラリア蚊減少につながった
  • 緊急自動車が家の近くまでくることができた

人々は、「土のう」による道直し活動を通して、様々な気づきを得、そして具体的な効果を体験した。このことは、更なる問題解決能力の醸成につながり、身の回りの問題を自ら解決する行動も見られるようになった。しかしながら、住民主体で農道整備を実施するには、限界があり、どのように土のうの中詰め材である土を調達するか、また、掘削地から整備箇所までの土の運送費用を誰が負担するかなど、課題は残されている。この点は更なる研究によって明らかにする予定である。

本発表は、「土のう」による道直し活動を通して、人々がどのように変わったかについて社会学的視点を中心に説明したため、土木工学的に「土のう」の有効性や耐久性を説明することが手薄となった。そのあたりを期待して来られたご出席者の方々には少々物足りなかったかと反省する。しかし、「土のう」の技術的な側面については、京都大学の木村教授と福林博士がすでに数々の論文を発表済みである。ご興味をお持ちの方には、論文をお送りすることも可能であるので是非ご一報いただければ幸いである。発表後のセッションでは、土木をご専門とされる方、文化人類学をご専門とされる方、そして、「土のう」に関心を持っていただいた方々などなど、各方面からのご質問、コメントをいただいた。どの質問も具体的で、発表者が持ち得ない視点を得ることができ、とても有意義な時間となった。

 

(本庄 由紀)
 

 
 
“DO-NOU” TECHNOLOGY CHANGES RURAL PEOPLE’S LIFE: Experience through rural road maintenance in larger Uasin Gishu District, Kenya

Honjo, Y., Fukubayashi, Y., and Kimura, M.

Date:     16th JUNE 2011
Venue: Japan Society for the Promotion of Science (JSPS), Nairobi Research Station
 
Summary
 
Rural roads are crucial for rural people’s transport from place to place. They access to markets, hospitals, and schools, etc. Rural roads play a fundamental part of rural people’s life, and well maintained rural roads provide a better life for them.
Impassable rural roads are serious problems during the rainy season in Kenya. This presentation clarifies the changes in terms of awareness and, agricultural and social benefits through rural road maintenance activities using “do-nou” technology in Western Kenya based on a research project. “Do-nou” is a Japanese word which means gunny bags containing soil, and “do-nou” technology is a kind of geo-textile method that enable roads stable with unskilled collective labour force and locally available materials.
Data was collected under the project in East and North Uasin Gishu and Wareng Districts, Kenya. Four groups were participating in the road maintenance project. 153 of group members were sampled and interviewed using an interview schedule which was both open- and close ended.
We found that a variety of awareness had arisen through “do-nou” technology, and that awareness was linked to satisfaction and success. Consequently “do-nou” activities created a web of awareness that will closely link motivation to activate group members’ capacity development.  Agricultural and social benefits were brought to group members. They realised that after the maintenance of roads, transport to markets became easier and they had more opportunity to earn their incomes. They also experienced easy access to hospitals and schools as social facilities. Those benefits improved their lives. 
 
However, several challenges remained for sustainable rural road maintenance by the group members’ initiative. The most critical challenges were to mobilise materials and their transport cost. We continue to trace the on-going development process on how to overcome those challenges for further studies.
In this research, rural road maintenance using “do-nou” technology activated group members’ potential. “Do-nou” activities became a trigger to challenge further problems that group members faced and an option to create better life for the rural people. 
 
Last but not least, this research project was implemented by Community Road Empowerment (CORE) which is an international NGO in Kenya; we wish to acknowledge with thanks to Mr. Kita, Ms. Matsumoto, Mr. Njuguna, and Mr. Biwotto, and to TOYOTA foundation for project funding. We also acknowledge with special thanks to University of Nairobi, Professor Chitere who partly supervised the research work that gave some ideas to this presentation.
 
 

 
【コメント】

ケニア西部で実施された農道整備プロジェクトの内容とプロジェクトのもたらす社会的効果について報告された今回のセミナーには、大学院生・若手研究者のほか、JICA職員、NGO職員など多彩なバックグラウンドの在留邦人の方々にご来聴いただいた。これは今回の演題が、それだけ広い方々の関心を集めていたことの証しだろう。質疑応答と議論の時間では、「土嚢」工法のより詳細な内容への質問、技術上の問題点やプロジェクトマネジメントの面からの質問やコメント、そしてプロジェクトの社会的効果についての議論やコメントが寄せられていた。

この調査報告の重要な意義のひとつは、報告者の本庄氏が上の報告文で述べている通り、「people friendly technology」という「土嚢」を使ったことによる効果である。これは、シューマッハの『Small is Beautiful』以来、1980年代に日本の開発学でもさかんだった「中間技術(intermediate technology)」あるいは「適正技術(appropriate technology)」についての議論とつながるだろう。ただしこうした技術は「答え」ではなく、その技術によって人びとの意識や社会、地域経済がどう変わっていくのかということを、関係するすべての人びと(stakehodlers)が考え、かつさらに関わっていく契機なのだという点を、このセミナーに参加した方々は確認できたはずだ。
 

(白石 壮一郎)
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