2020年1月、第188回ナイロビ学振セミナーを開催しました。

更新日:2020/09/12

2020年1月21日、第188回ナイロビ学振セミナーをJSPSナイロビ研究連絡センターにおいて開催しました。2019年5月にナイロビ・カレン地区の新事務所に移転して以降、2回目の学振セミナーとなり、新事務所を研究者・在留邦人にお披露目する機会ともなりました。

講師は、大阪府立大学研究員の林愛美先生で、テーマ、概要は以下の案内の通りでした。

 

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第188回学振 ナイロビセミナーのご案内(2019年9月15日)

テーマ: ケニアにおけるFGM/C廃絶運動についての考察―ナロク州におけるマサイの通過儀礼および住民主体の廃絶運動の調査から―

使用言語:日本語

講師: 林愛美 先生(大阪府立大学・研究員)

日時: 2020年1月21日(火) 13:30 ~ 16:30頃

会場: JSPSナイロビ研究連絡センター図書室(カレン地区Hub Karenモールl近く)

参加資格: 事前登録が必要です。
      国籍、年齢を問いません。
託児所は用意していませんが、聴講可能な年齢かどうかにかかわらず、子どもさんの同伴は可能です。

要旨:

ケニアに暮らす牧畜民マサイ(Maasai)の社会では、通過儀礼の一環として女性に性器切除(Female Genital Mutilation/Cutting、以下FGM/C)が課されてきた。しかし、FGM/Cは心身に深刻な弊害を与えることから、1970年代より廃絶に向けた国際的な議論が行われた。ケニアでは、1983年にFGM/C禁止の大統領令が出された後、2001年に子ども保護法で18歳未満に対するFGM/Cが禁止され、2011年にはFGM/Cの禁止法が成立した。これらの政策と並行してNGOによるFGM/C廃絶運動も展開された。

マサイが多く暮らすケニアのリフトヴァレー地域(Rift Valley Province)ナロク州(Narok County)ナロク北部(Narok North Constituency)では、FGM/C廃絶運動が様々なレベルで行われている。マサイのFGM/Cに対しては、国際NGOのWorld Visionや国内のフェミニストNGOであるMaendeleo ya Wanawakeのほか、ローカルNGOのTasaru Ntomonok Initiativeが廃絶活動を行ってきた。他にも地元のNGOや教会がFGM/Cや早期婚から逃れた少女のためのレスキューセンターを提供している。

ナロクの州政府は、FGM/Cの禁止法に基づいて少女を保護する体制を構築してきた。マサイの村落部で指導的な立場にある人物、例えば首長や教師、牧師などは地域でFGM/Cの強制が行われたことがわかると直ちに警察に通報するよう、協力を要請されている。通報がなされると、少女は州政府に保護される。州政府は少女の世話をレスキューセンターに委託する。禁止法に基づく裁判が進行する間、少女はレスキューセンターで衣食住を提供されるという仕組みになっている。

このように、ケニアでは中央政府、州政府、そして様々なアクターがFGM/C廃絶のための努力を積重ねてきた。一方で、近年のFGM/C廃絶に関する議論では、マサイのFGM/Cの文化的文脈はほとんど顧みられなくなっている。例えば、World Visionやナロクの地元NGOは、切除を伴わない代替の儀礼を提案する廃絶プログラムを毎年開催してきた。しかしながらその内容を分析すると、民族社会におけるFGM/Cの文脈が十分に考慮されたプログラムであるとは言い難く、一過性のイベントという印象を受ける[i]。マサイ主導の活動でさえFGM/Cの文化的慣習としての側面について十分に議論されているとは言えない。現在、「公共サービス青年ジェンダー省」の中にあるAnti-FGM Boardの代表およびCEOはマサイ系の女性である。しかしながらナロク州での観察に基づくと、中央政府において民族社会の文脈についてより深い議論がなされることは期待できないように思われる。

そのため本発表では、マサイの人びとを巻き込みながら拡大してきたナロクのFGM/C廃絶運動について概観したのち、先行研究および発表者の調査結果をもとにマサイの社会におけるFGM/Cの文化的文脈について示す。そして廃絶運動と通過儀礼の双方の研究に基づき、ケニアにおける近年のFGM/C廃絶運動のあり方について考察する。

[i] ナロクの地元NGOによる代替通過儀礼については、HAYASHI Manami (2017) “The State of Female Genital Mutilation among Kenyan Maasai : The View from a Community Based Organisation in Maa Pastoral Society,” Senri Ethnological Reports (143), 95-117.において詳しく議論している。

 

ご検討のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

JSPSナイロビ研究連絡センター
センター長 溝口大助
副センター長 稲角暢

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