第169回学振ナイロビセミナー(2012年11月27日開催)

更新日:2012/11/20

モノ・カネの移動からヒトの移動へ ― 開発と移動を考える

 

日時: 2012年11月27日(火) 14:00 ~ 16:00
会場;日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター(新オフィスの場所はこちらよりご確認ください)

主旨
従来の経済学は商品と貨幣と動きのみを取り扱ってきました。近年、人の移動に焦点をあてた研究が人文社会科学で広く行われています。今回はグローバリゼーション研究の第一人者である伊豫谷登士翁さんをお招きし、国際経済論から移民研究へというご自身の研究史を振りかえりながら、開発を考える糸口を示していただきます。そのうえで辛島理人さんに日本の開発経済研究がどのような背景のもとに制度化されていったかをお話ししていただきます。

話者
● 伊豫谷 登士翁 (いよたに・としお 一橋大学名誉教授)
京都大学経済学研究科修了(経済学博士)。東京外国語大学を経て一橋大学大学院教授(2012年に退職)。専攻は国際社会学、グローバリゼーション研究。著書に『グローバリゼーションとは何か』(平凡社新書)や『変貌する世界都市』(有斐閣)など、編著に『移動から場所を問うー現代移民研究の課題』(有信堂高文社)、共訳書にサスキア・サッセン『グローバル・シティーニューヨーク・ロンドン・東京から世界を読む』(筑摩書房)など。

● 辛島 理人 (からしま・まさと 京都大学文学研究科研究員)
一橋大学卒。オーストラリア国立大学博士課程修了。日本学術振興会特別研究員を経て現職。専攻は国際関係史、歴史人類学。訳書にテッサ・モーリス=スズキ『自由を耐え忍ぶ』(岩波書店)。博士論文はWartime Reform and Postwar Asian Studies in Japan: Transwar Activities and Thought of Itagaki Yoichi (オーストラリア国立大学、2011年)。

 

【写真】 話題提供する辛島理人さん(中央)、伊豫谷登士翁さん(右)


【コメント】

当日は、おふたりの話題提供者のうち、まず辛島さんより、日本の開発経済思想の戦前/戦後、コロンボ・プランなどの「55年ごろ体制」、70年以降というおおまかな流れを、代表的知識人と制度・組織の編成などについて政・財・官・学の各側面から説き起こしていただきました。くわしくは、辛島さんの近著「開発思想における戦前と戦後」(酒井哲哉ほか編『外交思想(シリーズ日本の外交)』、岩波書店、2013年予刊)をごらんください。

次いで伊豫谷さんは、戦前の矢内原忠雄に代表される「植民論」講座(植民政策学)から戦後の国際経済学への流れの人的・思想的に連続する要素を指摘されました。日本に限らず欧米においても、こうした国民経済ベースの国際経済の調整という流れをふまえた移民研究があり、「社会問題としての移民研究」が比較的近年にはじまったということ、また、こうした労働力人口移動としての移民政策研究(国民経済の維持・発展という資格は植民論以来不変)だけではなく、移動・移住を経験としてとらえる視角をもった研究への展望をお話ししていただきました。

今回のセミナーは、テーマに関心をもたれたJICA、UNHCR、World Bank、JETRO、NGOsにお勤めの方、ナイロビ在住の一般の方、大学院生や大学学部生などさまざまなバックグラウンドをおもちの方々14人にご参加いただきました。全体の議論では、移民とアイデンティティの問題を学問的にどうあつかうのか(「アイデンティティ」に過度にフォーカスするより具体的経験の事例蓄積が肝要)、難民キャンプでの文化人類学的調査の事例(牧畜民の遊動性と難民としてのかれらの移動性の類似?)、国家の政策の流れとはある種別のところで個々の動きによって移動・移住する現在の移民のイメージ、少子高齢化後の日本社会での移民受け入れと「多文化共生」スキームなどについて活発に議論がなされました。

みなさん、どうもありがとうございました。

(白石 壮一郎)

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