TICAD VI(TICAD 6)公式プレ・イベント、“Anniversary of 50 years of African Studies and Japan-Africa Cooperation in the future”を開催しました。

更新日:2016/07/29

2016年7月21日、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターは、京都大学、長崎大学、北海道大学、筑波大学JAAN、アフリカ各国機関をはじめとした学術協力機関を招集し、TICAD VI(TICAD 6)公式イベントを開催しました。日本学術振興会安西祐一郎理事長、山極壽一京都大学総長、片峰茂長崎大学学長、アフリカ学会太田至副会長をはじめ、世界を代表する研究者のトップを招聘し、本格的な京都大学アフリカ学術調査隊、長崎大学熱帯医学研究、そして日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター創設50周年を記念し、アフリカにおける学術協力の未来を議論しました。 同イベントでは、2015年ノーベル賞受賞者大村智博士から、TICAD VIナイロビ宣言のテーマでありかつ国際援助における喫緊の課題である感染症・国際保健システム構築についてのTICAD VI公式イベント記念スピーチを頂きました。

幸運なことに、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センター50周年、京都大学アフリカ学術研究50周年、長崎大学アフリカ学術協力50周年という記念すべき時機がアフリカ大陸初のTICAD6と偶然重なったため、本シンポジウムは、アフリカ学術協力、科学技術協力の半世紀の歴史を振り返り、将来にわたってアフリカ固有の社会システムに実装化することのできる問題解決実現の可能性を探ることを目的として開催されました。
前回のTICADⅤ(2013年)では、ABEイニシアティブ、国際共同研究推進、E-JUSTに代表される高等教育拠点形成などが実際の政策として実施されました。2016年8月のTICADⅥでも、エボラ出血熱の流行、アルシャバブ、ボコハラムなどのテロ問題が国際支援上の難問として立ちはだかっており、国際共同研究を通じて緊急に解決すべき課題となっています。更に、資源・エネルギー問題、国際保健システム構築、食料の安全保障、人間の安全保障(難民問題、紛争、テロ)、環境保全をはじめアフリカの諸問題解決は、2015年にAUにより採択された「アジェンダ2063」(アフリカの開発大綱)の最重要課題となっています。近年、上記諸課題を解決するための学術共同研究、科学技術イノベーションの促進が、推し進めるべき課題として認識されつつあります。ところが、現在でもアフリカ大陸54カ国の研究開発投資は圧倒的に不足がちであり、先進諸国とのアフリカ共同研究も低水準に落ち込んでいます。
以上の背景のもと、本シンポジウムの目的は、感染症・国際保健、熱帯医学、紛争研究、資源・エネルギー研究、食糧の安全保障、環境保全、開発学、社会人類学、地域研究、生態人類学、霊長類学をはじめとした各界のアフリカ人、日本人、ヨーロッパ人研究者を招集することで、植民地独立後50年以上継続している日-ア学術共同研究・研究開発の成果を考察することにあります(他にも、細菌学、ゲノミクス、土木工学、分子生物学、生化学、生物無機化学、フォトニクス、情報システム学、資源管理学、獣医学、農学、化学、地学、動物行動学、形質人類学、ロボット工学、植物学、獣医寄生虫学、資源管理学、水産学、作物学、地球化学、獣医学、植物生態生理学の各研究者を招聘し、日-ア学術協力の可能性を議論を深めること)。更に、将来にわたってアフリカ各国固有の社会システムに実装化することのできる問題解決実現の可能性を探ることにありました。
以上のように、日−ア科学技術協力振興、日−ア双方の研究者育成推進、日−ア共同研究促進などの観点から議論を深め、ひいてはTICAD VI公式イベントとして学術界からアフリカ学術協力についての新たな提言を提出することを目標としました。
今回のシンポジウムは、京都大学と長崎大学が共催機関となり、日本学術振興会が主催しました。また後援として、筑波大学JAAN、北海道大学ルサカ・オフィス、北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター、在ケニア日本国大使館、国際協力機構、アフリカ学会の協力、海外からは、フランス国立社会科学高等研究院、フランス国立科学研究センター、フランス国立アフリカ研究所、イギリス国立アフリカ研究所、ケニア科学技術評議会(NACOSTI)、ナミビア国立研究科学技術評議会、ウガンダ国立科学技術評議会、コートジボワール国立科学研究戦略委員会、モザンビーク国立研究財団、マラウィ国立科学技術評議会、ベナン国立科学技術研究所などの支援を受けました。

50周年記念事業の意義・背景
 
ナイロビ研究連絡センター創設50周年記念にいたる経緯をご説明差し上げます。
50年前のナイロビ・センターは、植民地から独立して間もないアフリカ諸国全体に関する乏しい情報を、現地調査と文献調査を通じて収集・蓄積・発信し、学術発表のフォーラムを提供することにより、アフリカ研究の中軸となって発展しました。現在では日本や世界でも手に入れることができないアフリカ諸国の貴重な文献・図書・地図など6000点が蓄積・利用されています。
ナイロビ・センター設立までの歴史的経緯を概略します。
アフリカ各国が独立を勝ち取ろうとしていた時期、日本においては、1958 年-1964年に実施された京都大学学術調査隊は、今西錦司、梅棹忠夫、伊谷純一郎らに率いられ、日本における理学系研究、とくに動物行動学、霊長類学、人類学を国際的水準に引き揚げました。その後、東の東京大学、西の京都大学を牽引機関とし、日本のアフリカ研究は飛躍的に発展しました。こうしたアフリカ研究のブレークスルーを背景にして、1964年に東京外大アジア・アフリカ言語文化研究所が設立、同年には日本アフリカ学会が設立され、上記全ての機関の関係者の尽力によって、1965年にナイロビ・センターが設置され、アフリカ諸国の学術研究の現地情報を集約し発信する基地となりました。
ナイロビ研究連絡センターを活用して現地調査を行う研究者の専門分野は、多種多様であり、地質学、地球物理学、熱帯医学、自然地理学、動物生態学、霊長類学、自然人類学、生態人類学、文化人類学、工芸研究、社会学、考古学、歴史学、文学、言語学、法律学、政治学、国際関係論、経済学・経済史学であり、文系と理系の諸科学が融合したユニークな活動を行うセンターであることがわかります。
一例としてなかでも特筆すべきは、基礎研究に非常に弱いとされていた日本の学問にあって、国際的にも高い評価を受け世界最高水準を維持しつづける霊長類学があげられます。この「世界に冠たる」日本の霊長類学、動物行動学の基礎研究は、ナイロビ・センターを拠点として活用することで精密でユニークな現地調査を行った今西錦司、河合雅雄、日高敏隆、梅棹忠夫、伊谷純一郎らによって確立されました。ナイロビ研究連絡センターの歴代のセンター長としては、人類学のノーベル賞ハクスリー賞を受賞した伊谷純一郎、その直弟子である山極壽一京都大学総長や、人類学で世界的発見をし頻繁にネーチャーやサイエンスに掲載される東京大学の諏訪元先生などがおります。なかでも最近諏訪先生は、2009年『サイエンス』のブレイクスルー・オブ・ザ・イヤーにも選出されました。先生方は、世界的に優れた成果をあげ、センターの活動を発展・拡大させその学術研究拠点としてのセンターの存在を世界にアピールしました。また半世紀にわたる学術交流の歴史的必然として、多くのアフリカ人研究者や政府の教育・科学関係者と深い関係を築き、日本への理解と友好の促進に大きな貢献をしてきたのです。こうした活動の蓄積を振り返りながら、今後の新しい役割の遂行に向けて、50年間継続したセンターの真価を問う時期が来ていると感じます。
 元来、我がセンターの基本的任務は、アフリカ諸国の学術機関との交流促進にあり、また若手研究者のキャパシティ・ビルディングにあります。同センターは、日本のアフリカ研究の誕生と成長、そして飛躍的発展とブレークスルーという半世紀の歴史経緯に寄り添って、日本とアフリカの学術交流の結節点としてこれまで大きな貢献をしてきました。日本学術振興会の科学研究費による日-ア学術協力の採択数は、これまで2,500件以上にものぼり、数万人規模の研究者がこの科学研究費により大きな成果をあげ、世界にも類例をみない日-ア学術協力のプラットフォームを形成してきました。
50年前、研究施設も、研究費も、研究資材もなく、生活もこんにちのように豊かでなかった時代、劣悪な研究条件であったにもかかわらず、当時のアフリカ研究者達は地道な現地調査をつづけ国際的にも評価される研究成果を上げてきました。今でもナイロビ研究連絡センターから飛び立っていくたくさんの若手研究者のパッションに触れると、50年前のアフリカ研究者達の内側に燃え上がる情熱が確実に継承されているように感じます。たしかに一面だけをみると、内戦、紛争、熱帯病、強盗、泥棒など日常の危険などが隣り合わせであるアフリカ社会において現地調査を行い研究を継続することは困難のようにも思われることでしょう。しかしアフリカ研究者は、こうした困難を数倍上回る希望と可能性をアフリカ調査のなかで見出し、長期にわたる現地調査を行ってきたのです。ナイロビ・センターはこうした活動を支え、こうした研究の成果を媒介にして、アフリカと日本の等身大の学術交流のエンジンとして活動してきました。
最後に、自然科学、人文・社会科学の研究者などが実施する現地調査と知的闘争をこの50年間支援し、それによって深いレベルでの実質的な学術交流を発展させてきたナイロビ・センターを、80周年100周年に向け今度は世界一流の人材輩出の理想の拠点にすべく更に発展拡大するように尽力いたします。

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  • 集合写真

    集合写真

     
    会場の様子

    会場の様子

    パネルディスカッション

    パネルディスカッション

    パネルディスカッション(安西理事長)

    パネルディスカッション(安西理事長)

    ナイロビ国立博物館にて

    ナイロビ国立博物館にて

    ナイロビ研究連絡センターにて

    ナイロビ研究連絡センターにて

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    当日はいたらなかった点も多々ございましたが、無事に終了することができました。
    これもひとえに、長崎大学、京都大学をはじめとする皆様の多大なるご支援の賜物であります。
    深く御礼申し上げます。
    ナイロビ研究連絡センターは、引き続き、日本とアフリカの学術研究の発展のために尽力してまいります。

    このたびは、まことにありがとうございました。
    今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。

    センター長 溝口大助、副センター長 上村知春

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